家計が赤字になるのはなぜか?──数字より先に整理すべき構造

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なぜ赤字は「分かっているのに繰り返される」のか

家計が赤字になる状態を、多くの人は「支出が収入を超えている」と理解しています。

この理解は正しいのですが、不十分です。

なぜなら、支出が収入を超えている原因が何なのか、その赤字は一時的なものか構造的なものか、改善すべき対象はどこにあるのかが、この理解だけでは見えないからです。

家計が赤字になる状態には、複数の構造が存在します。その構造を区別せずに「赤字だから節約しよう」と判断しても、効果は出ません。

この記事では、家計赤字が発生する構造を整理し、どこを見れば判断の前提が整うのかを明らかにします。

よくある前提のズレ

家計赤字を考えるとき、多くの人が無意識に置いている前提があります。

赤字はすべて同じという認識

「赤字」という言葉は、単に支出が収入を上回った状態を指します。

しかし赤字には、一時的な赤字と構造的な赤字があります。

一時的な赤字とは、冠婚葬祭や家電の買い替えなど、単発の支出によって発生する赤字です。この赤字は、翌月以降の黒字で相殺できる可能性があります。

構造的な赤字とは、毎月繰り返し発生する赤字です。固定費が高すぎる、収入に対して生活水準が高すぎる、無意識の支出が積み重なっているなどの原因で発生します。

この2つを区別せずに「赤字だ」と認識すると、改善の方向性を誤ります。

支出は把握できているという思い込み

「何にいくら使ったか」を聞かれたとき、多くの人は答えられません。

なぜなら人間の記憶は、支出の総額や内訳を正確に保持できないからです。

特に小額の支出、習慣化した支出、感情に紐づいた支出は、記憶から抜け落ちやすい傾向があります。

支出を把握できていないと、赤字の原因を特定できません。原因が特定できなければ、判断のしようがありません。

赤字の原因は変動費にあるという誤解

食費や交際費など、目に見えやすい支出を削ろうとする人がいます。

しかし家計支出の大部分を占めるのは、固定費です。家賃、保険料、通信費、車両費、サブスクリプションなどです。

固定費が高止まりしている状態では、変動費をいくら削っても改善幅は限定的です。

この誤解があると、努力しているのに結果が出ないという状態に陥ります。

家計赤字が発生する構造を整理する3つの軸

軸① 支出の発生タイミングによる分類

家計の支出は、発生タイミングによって3種類に分けられます。

まず毎月発生する支出です。家賃、保険料、通信費、食費、日用品など、毎月必ず発生する支出です。

次に不定期に発生する支出です。冠婚葬祭、医療費、家電の買い替え、旅行など、発生時期が予測しにくい支出です。

最後に年単位で発生する支出です。固定資産税、自動車税、車検、保険の年払いなど、年に1回または数年に1回発生する支出です。

赤字が続く家庭の多くは、毎月発生する支出だけを「家計」として認識し、不定期や年単位の支出を「特別な出費」として別扱いしています。

しかし不定期の支出も年単位の支出も、長期的には必ず発生します。これらを月割りで計算に入れないと、収支の全体像が見えません。

軸② 支出の性質による分類

支出には、性質の異なる2種類があります。

まず固定費です。契約によって自動的に支払いが発生する支出です。家賃、保険料、通信費、サブスクリプション、習い事などが該当します。

次に変動費です。その都度判断して支払う支出です。食費、日用品、交際費、娯楽費などが該当します。

固定費は、一度契約すれば見直す機会がありません。そのため無意識に積み上がります。

変動費は、都度判断するため意識しやすいのですが、総額への影響は固定費より小さい場合が多いのです。

赤字が構造化している家庭の多くは、固定費が収入の50%を超えています。この状態では、変動費をいくら削っても余力が生まれません。

軸③ 支出の意図による分類

支出には、意図の異なる3種類があります。

まず計画的な支出です。必要性を判断し、予算を立てて行う支出です。

次に習慣的な支出です。考えずに繰り返している支出です。毎朝のコーヒー、帰宅時のコンビニ、定期的な外食などが該当します。

最後に感情的な支出です。疲労、ストレス、不安、達成感などの感情をきっかけに発生する支出です。

計画的な支出は、家計に影響を与えにくい支出です。なぜなら予算内に収まるように調整されているからです。

習慣的な支出と感情的な支出は、無意識に積み重なるため、総額が見えにくくなります。特に感情的な支出は、頻度が上がると家計を圧迫します。

赤字の構造を整理する順番

家計の赤字を理解するには、見る順番があります。

最初に確認すべきこと

まず赤字が一時的か構造的かを確認します。

過去3か月から半年の収支を並べ、毎月赤字なのか、特定の月だけ赤字なのかを見ます。

毎月赤字であれば、構造的な問題があります。特定の月だけ赤字であれば、その月に何が発生したのかを確認します。

構造的な赤字の場合、固定費の見直しが必要になる可能性が高くなります。一時的な赤字の場合、不定期支出の予算化が対策になります。

次に考えるべきこと

固定費の総額を確認します。

家賃、保険料、通信費、車両費、サブスクリプション、習い事など、契約によって自動的に支払われている金額をすべて書き出します。

その合計が収入の何%を占めているかを計算します。

50%を超えている場合、固定費が家計を圧迫しています。60%を超えている場合、変動費や貯蓄に回す余力がほとんどありません。

この段階で、改善の優先順位が見えてきます。固定費が高い場合、変動費をいくら削っても効果は限定的だからです。

最後に判断するポイント

支出を1か月記録します。

記録の目的は、支出の全体像を把握することです。何にいくら使ったのか、どの支出が計画的で、どの支出が習慣的または感情的だったのかを区別します。

記録は1か月だけで十分です。1か月の記録があれば、支出の傾向と、無意識に繰り返している支出が見えます。

ここで止まってもかまいません。記録を続けることが目的ではなく、構造を見ることが目的だからです。

この整理が使える場面・使えない場面

有効なケース

赤字が続いているが、原因が分からない場合に有効です。

また、節約しているつもりなのに赤字が止まらない場合も、この整理によって見落としている構造が見えます。

固定費を見直したことがない家庭、支出を記録したことがない家庭には、即効性があります。

注意が必要なケース

収入が極端に少ない場合、構造の整理だけでは解決しません。支出の削減より、収入増加の選択肢を検討する必要があります。

また、借金返済や税金滞納など、すでに債務が積み上がっている場合は、専門家への相談が優先されます。

感情的な支出が多い場合、構造の整理だけでは行動が変わらない可能性があります。疲労やストレスの軽減が先になる場合があります。

なお、赤字の典型パターンと具体的な改善ステップについては、noteで公開している「【FP×心理 総合FAQ】家計が赤字になる家庭の典型パターン」で、FP視点と心理構造を組み合わせた詳細な分析を掲載しています。

自分で判断するために

家計が赤字になる原因は、一つではありません。

支出の発生タイミング、支出の性質、支出の意図という3つの軸が、複雑に絡み合っています。

この記事で示したのは、正解ではなく、判断の前提を整理する軸と順番です。

まず赤字が一時的か構造的かを確認し、次に固定費の比率を見て、最後に支出を1か月記録する。

この順番で整理すれば、自分の家計がどの構造で赤字になっているのかが見えてきます。

判断は、構造が見えてから行うものです。