家計が苦しいと感じたら、いきなり全部を削らない
家計が苦しいと感じたとき、多くの人がまずやってしまうのが「とりあえず節約」です。
食費を減らす、日用品を我慢する、外食をやめる。
どれも間違いではありませんが、生活に一番近い支出から手をつけると、削れる金額は小さいのに、我慢だけが積み重なっていきます。
家計が苦しくなったときに最初にやることは、削ることではなく、確認することです。
確認する順番は、次の5つです。
- 現金収支
- 固定費
- 変動費
- 積立・投資
- 備え・今後の大きな支出
この順番には理由があります。
先に手をつけやすい支出から削るのではなく、「どこで赤字が生まれているか」を先に観測してから、削る場所と守る場所を分けるための順番です。
ここから、それぞれの段階で何を見るのか、どの状態になったら次へ進んでよいのかを順に整理していきます。
最初に現金収支を見る理由
「苦しい」という感覚は、家計を見直すきっかけとして大切なものです。
ただし、その感覚だけで「危険な状態だ」と決めてしまうと、必要以上に不安が先行して、生活に必要な支出まで削る方向に動きやすくなります。
最初にやることは、感覚を数字に置き換えることです。確認するのは次の4つです。
- 今月の手取り収入
- 今月の実際の支出
- 収支が黒字か赤字か
- その赤字が今月だけのものか、複数月続いているものか
たとえば「今月は使いすぎた気がする」という感覚を、「手取り35万円に対して支出38万円、3万円の赤字」という数字に置き換えると、感覚のままでは見えなかった規模と傾向が見えてきます。
ここで重要なのは、赤字が出ていること自体を責めないことです。
そのうえで、単月の赤字なのか、複数月続いている赤字なのかによって、次に確認したい内容が変わります。
- 単月の赤字であれば、まず冠婚葬祭や家電の買い替えなど、一時的な支出がなかったかを確認します。
一時的な支出が見当たらない場合や、来月以降も同じ程度の赤字が続きそうな場合は、次の固定費の確認へ進みます。 - 複数月にわたって赤字が続いている場合は、固定費や積立額など、毎月繰り返し発生している要因がないかを確認します。
ただし、複数月の赤字でも、冷暖房費のような季節要因や、一時的な支出がたまたま連続しただけの場合もあるため、「複数月続いている=必ず構造的な問題」と決めつける必要はありません。
いずれの場合も、一時的な要因では説明がつかない、あるいは今後も同程度の赤字が続きそうだと分かった時点で、次は固定費の確認に進みます。
固定費を変動費より先に見る理由
固定費を先に見るのは、「固定費が一番悪い」からではなく、「一度見直すと、その効果が翌月以降も続く」からです。
住居費、保険料、通信契約、定額サービス、毎月定額の習い事などは、一度金額を変えれば、意識しなくても毎月同じ分だけ支出が減ります。
食費のように、毎月意識して調整し続ける必要がありません。
ただし、ここで避けたいのは「固定費だから機械的に削る」という発想です。固定費の中には、
- 仕事に必要な通信費や機材費
- 生命保険・医療保険などの保険料
- 住居費や、家族の生活に必要な毎月定額の習い事・通学費
のように、削ると生活や仕事に直接影響が出るものも含まれています。
固定費を見る目的は「削れるだけ削る」ことではなく、「使っていないもの・重複しているもの・見直しても生活に影響が出ないもの」を先に特定することです。
固定費の金額の目安や、手取りに対してどのくらいの割合までなら余力があると言えるかについては、より詳しく整理した記事があります。
固定費が「多いか少ないか」を金額だけで判断すると見誤りやすいため、固定費はいくらまでなら安心?——金額ではなく「手取りに占める割合」と家計の余力で考える では、割合と余力から固定費を見る考え方を扱っています。
今回の記事で「固定費を確認する」と判断した場合、次にこの記事を読むと、どこまでなら削ってよいかの基準を作りやすくなります。
使っていないもの・重複しているもの・見直しても生活に影響が出ないものを洗い出せたら、次は変動費の確認に進みます。
変動費は「高い・低い」で採点しない
食費、日用品費、交際費などの変動費は、家計簿を見たときに一番目につきやすい項目です。
しかし、変動費を見るときにやりがちなのが、「先月より高いから使いすぎ」という採点です。
変動費を見るときに確認したいのは、金額そのものよりも内訳です。
- 一時的な出費だったか(来客、家族の行事、帰省時の食事、家電の買い替えなど)
- 季節的な要因があったか(冷暖房費、行事の多い月など)
- 家族のイベントが重なっていたか
- 特定の週や特定の使い方に支出が偏っていたか
たとえば「今月は食費が高かった」としても、それが来客や家族の行事による一時的な出費だったのか、毎週の買い物が積み重なった結果なのかで、翌月以降に取るべき対応はまったく変わります。
前者であれば来月には自然に元に戻る可能性が高く、後者であれば買い物の頻度や量そのものを見直す必要があります。
変動費は、「削る対象」として扱う前に、「なぜその金額になったか」を切り分ける対象として扱うことが、家計心理での基本的な見方です。
一時的な要因と、毎月繰り返しそうな要因を分けられたら、次は積立・投資の確認に進みます。
積立・投資は、生活費の後に置いて考える
NISAなどの積立投資は、将来のための支出であると同時に、今月の生活を圧迫する要因にもなり得ます。
積立額を先に固定してしまうと、その残りで生活費をやりくりする形になり、固定費や変動費を見直しても赤字が解消しない、という状態が起こります。
家計心理では、積立額そのものを否定しません。
ただし、
積立を続けるために、生活に必要な支出を削っている状態が続いているなら、積立額の見直しも選択肢に入れる
という考え方を取ります。
積立額を下げることは、資産形成の失敗ではなく、今の家計に合わせて条件を調整する行為です。
積立額と生活費のバランスをどう見るかについては、次の記事で詳しく扱っています。
積立を続けながら生活が苦しい状態が続いている場合は、NISAを続けているのに家計が苦しい——積立額より先に「生活に残すお金」を見る で、積立額を決める前に何を確保しておくべきかを整理しています。
また、積立額を実際に下げるかどうかで迷う場合は、NISAの積立額を下げるのは失敗?——家計の余力に合わせて見直す判断基準 が、下げる・下げないを分ける判断基準を扱っています。
今回の記事で「積立を確認する」という段階に来たら、この2つのどちらが今の状況に近いかで読み進めると、次の判断がしやすくなります。
積立が今の生活の余力をどの程度圧迫しているかを確認できたら、次は備え・今後の支出の確認に進みます。
備え・今後の大きな支出まで含めて余力を見る
単月の収支や積立額だけを見て判断すると、生活防衛資金や、これから発生する大きな支出を見落としがちです。
最後に確認したいのは、次のような項目です。
- 生活防衛資金がどのくらいあるか
- 税金や保険料の年払いがあるか
- 車検や更新のタイミングが近くないか
- 教育費や住宅関連の支出予定
- 冠婚葬祭など、想定できる範囲の出費
- 3〜12か月以内に発生しそうな大きな支出
生活防衛資金が十分にあり、当面大きな支出の予定もないのであれば、単月の赤字に対してそこまで急いで手を打たなくてもよい場合もあります。
反対に、防衛資金が少なく、近いうちにまとまった支出が控えているなら、固定費や積立額の見直しを、より早めに進めたほうがよい状況だと言えます。
ここまでの5段階を通して見えてくるのは、「家計が苦しい」という状態には、いくつもの原因の組み合わせがあるということです。
単純に一つの支出を削って終わる話ではありません。
仮想ケースで確認順序をたどってみる
ここからは、確認順序の考え方を具体的にイメージしやすくするための仮想の例です。
実際の相談事例ではなく、説明のために設定した数値であることを前置きしておきます。
仮想の家計条件
- 手取り月収:35万円
- 通常の月間支出:38万円(このうちNISA積立5万円を含む)
- 毎月の赤字:3万円
- 固定費の一部に見直せる余地がある
- 今月は食費が高めに出ているが、来客や家族の行事による一時的な出費も含まれている
- 生活防衛資金は一定額を確保できている
1. まず「3万円の赤字」という事実を確認する
感覚では「今月は使いすぎた」でも、数字にすると「手取り35万円に対して支出38万円(NISA積立5万円を含む)、3万円の赤字」です。
これが単月なのか、過去数か月も同様の傾向があるのかを確認します。
ここでは複数月続いている前提で進めます。
2. 固定費の中で、継続的に減らせる項目を確認する
通信費や使っていないサブスクリプションなど、生活や仕事に影響しない範囲で、毎月1万円程度見直せる余地があるとします。
この時点で支出は38万円から37万円になり、赤字は3万円から2万円に縮小します。
3. 変動費のうち、一時要因を切り分ける
今月の食費の増加のうち、一部は来客や家族の行事による一時的な支出だったことがわかります。
来月以降は通常の水準に戻る見込みがあるため、この分は「継続的な問題」としては扱いません。
4. それでも赤字が残るなら、積立額を再評価する
固定費の見直し後も赤字が続く場合、支出に含まれる5万円のNISA積立を続けることで生活費を圧迫していないかを確認します。
ここで積立額を一時的に5万円から3万円に調整すると、支出はさらに2万円下がります。
これは失敗ではなく、今の家計条件に合わせた調整です。
5. 生活防衛資金と今後の支出予定を見て、最終的な判断をする
固定費の見直しで1万円、積立額の調整で2万円、あわせて3万円の支出減少となり、手取り35万円に対して支出も35万円となる計算になります。
防衛資金が一定額あり、直近数か月に大きな支出予定がないのであれば、この2つの調整だけで様子を見る、という判断も成り立ちます。
反対に、近く大きな支出が控えているなら、変動費側の見直しも合わせて検討する余地が出てきます。
この仮想例からわかるのは、「食費を1万円削れば解決する」という単純な話ではなく、確認する順番によって、削る場所と守る場所を分けられるということです。
固定費の見直しと積立額の調整だけで赤字が解消するのであれば、日々の生活費まで無理に切り詰める必要はありません。
家計が苦しいときの確認チェックリスト
ここまでの内容を、実際に自分の家計にあてはめるためのチェック項目としてまとめます。
順番に確認してみてください。
- [ ] 今月の手取り収入はいくらか
- [ ] 今月の総支出はいくらか
- [ ] 赤字はいくらか
- [ ] 赤字は今月だけか、複数月続いているか
- [ ] 固定費で、使っていない・重複しているものはないか
- [ ] 生活や仕事に必要な固定費まで削ろうとしていないか
- [ ] 変動費の増加に一時的な理由があるか
- [ ] NISAなどの積立が生活の余力を圧迫していないか
- [ ] 生活防衛資金はいくらあるか
- [ ] 3〜12か月以内に大きな支出予定がないか
- [ ] 今回見直す支出と、守る支出を分けられているか
すべてを一度に埋める必要はありません。
まず現金収支の2項目を確認し、赤字の実態がわかった時点で、次に固定費へ進む、というように、順を追って使ってもらえればと思います。
確認したあとに、自分で決められること
家計が苦しいと感じたとき、最初に必要なのは「何を削るか」を決めることではなく、「どこで赤字が生まれているか」を見ることです。
現金収支、固定費、変動費、積立・投資、備えという順番で確認していくと、生活に一番近い支出だけを我慢する状態を避けやすくなります。
固定費や積立額のように、一度見直せば継続的に効く部分と、変動費のように一時的な要因が混ざりやすい部分は、性質が違います。
この違いを分けたうえで、必要な生活費、将来のための積立、もしものための備えに、どう配分するかを整理していくことになります。
一度確認して線を引いたとしても、それで終わりではありません。
収入が変わったり、家族の状況が変わったりすれば、また現金収支から見直す場面が出てきます。
そのときは、今回と同じ順番で、もう一度確認し直せば十分です。