共働き夫婦の生命保険、必要保障額はどう判断すべき?──「足りない部分だけ」を線引きする実務の型

FAQ ec_wp_household.takebyc_共働き夫婦生命保険必要保障額-3

「生命保険、なんとなく高い気がする。でも、減らして大丈夫なのか判断できない」

共働き夫婦の家計では、この迷いがよく起こります。

片方に万が一のことがあっても、もう一方の収入は残る。けれど、住宅ローン、教育費、生活費、老後資金まで考えると、「本当にいくら必要なのか」は簡単には見えません。

その結果、不安だから手厚く入る。根拠がないから減らせない。毎月の保険料だけが固定費として残り続ける。

生命保険の必要保障額は、「多ければ安心」というものではありません。

大切なのは、万が一のときに必要なお金から、すでに用意できているお金と公的保障を差し引き、「足りない部分だけ」を線引きすることです。

この記事では、共働き夫婦が生命保険の必要保障額を考えるときの実務的な順番を整理します。

必要保障額は「保険に入る金額」から考えない

生命保険の見直しで最初にやってはいけないのは、いきなり保険商品の比較から入ることです。

月いくらの保険料なら払えるか。

死亡保障はいくらなら安心か。

掛け捨てと貯蓄型のどちらが得か。

こうした問いは大切ですが、最初に考えると判断がぶれます。

必要保障額の出発点は、「保険でいくら準備するか」ではありません。

万が一のときに、家族の生活をどこまで守りたいか。そのために、いつ、どれくらい不足しそうか。ここから考えます。

保険は、足りない部分を埋める道具です。

道具から考えるのではなく、不足する場所から考える。ここを間違えないことが、過不足のない保障に近づく第一歩です。

共働き夫婦が迷いやすい3つの前提

必要保障額の判断が止まりやすいのは、数字が複雑だからだけではありません。

前提が整理されていないまま、保険料や保障額だけを見ていることが多いからです。

今と同じ生活を完全に維持しなければならない

万が一のとき、残された家族の生活費は今と同じとは限りません。

世帯収入は変わりますが、支出も変わります。住居費、教育費、日々の生活費、働き方、親族の支援の有無によって、必要なお金は世帯ごとに違います。

「今の生活費をそのまま何十年分」と考えると、必要保障額は過大になりやすくなります。

完全に同じ生活を維持するのか。最低限守りたい生活水準を決めるのか。

まず、守りたい範囲を夫婦で言葉にする必要があります。

保障は多いほど安心

死亡保障が多ければ、心理的には安心に見えます。

けれど、生命保険料は毎月の固定費です。

過剰な保障を持ち続けると、今の家計を圧迫します。教育費、住宅費、老後資金、日々の余白に回せたはずのお金が、必要以上の保険料に固定されてしまうこともあります。

保険は不安を消すためのものではなく、不足を補うためのものです。

「不安だから多く」ではなく、「足りないからその分だけ」という見方に変えることが大切です。

必要保障額は一度決めたら変わらない

必要保障額は、ライフステージによって変わります。

子どもが小さい時期は、教育費と生活費の期間が長く残ります。住宅ローンがある時期は、住まいの前提も確認が必要です。

一方で、子どもが独立した後や、住宅ローン残高が減った後は、必要な保障額も小さくなることがあります。

必要保障額は固定の正解ではありません。

いまの家族の状態に合わせて、数年ごとに見直すものです。

必要保障額を考える順番

必要保障額は、次の順番で整理すると考えやすくなります。

順番を飛ばしてしまうと、保険商品や保険料の印象に引っ張られます。

1. 今ある資産と負債を確認する

最初に確認するのは、いま家計に何があるかです。

預貯金、投資信託、勤務先の死亡退職金、すでに入っている保険の死亡保険金、学資保険や終身保険の解約返戻金。

反対に、住宅ローン、教育ローン、車のローン、その他の借入も確認します。

ここで見たいのは、細かい評価額ではなく「万が一のときのスタートライン」です。

すでにある資産を見ないまま保険額を考えると、必要以上に大きな保障を持ちやすくなります。

2. これから必要になるお金を時系列で並べる

次に、これから必要になるお金を年単位で並べます。

子どもの教育費が大きくなる時期。

住宅ローンが残る期間。

配偶者が働き方を変える可能性。

車の買い替え、引っ越し、親の介護、自分たちの老後資金。

必要保障額は、合計額だけで考えると大きく見えすぎます。

いつ不足しそうなのか、何年くらい不足が続きそうなのかを分けると、保障を厚くしたい時期と、薄くしてよい時期が見えてきます。

3. 公的保障で補われる部分を確認する

ここで初めて、公的保障を確認します。

遺族年金は、亡くなった人の加入状況、保険料納付状況、残された家族の関係、子どもの有無などによって受け取れるかどうかや金額が変わります。

たとえば、遺族基礎年金は、一定の要件を満たした場合に「子のある配偶者」または「子」が受け取れる年金です。ここでいう子は、原則として18歳になった年度の3月31日までにある子などを指します。

遺族厚生年金は、一定の要件を満たす厚生年金加入者などが亡くなった場合に、対象となる遺族が受け取る年金です。年金額は、原則として亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分をもとに計算されます。

注意したいのは、ねんきんネットの見込額試算だけで遺族年金額を確認しようとしないことです。日本年金機構のFAQでは、ねんきんネットの年金見込額試算は老齢基礎年金・老齢厚生年金が対象で、遺族年金は対象外とされています。

そのため、遺族年金は「自分たちでざっくり決めつける」のではなく、年金記録や公式情報を確認し、必要に応じて年金事務所や専門家に確認する前提で考えます。

4. 最後に「足りない部分」を保険で補う

最後に、必要なお金から、次のものを差し引きます。

いまある資産。

残された配偶者の収入。

勤務先からの死亡退職金など。

公的保障で補われる部分。

すでに加入している保険の死亡保険金。

そのうえで残る不足分が、民間の生命保険で備えるべき金額の目安です。

ここで初めて、「死亡保障はいくら必要か」という問いに進みます。

必要保障額とは、怖さに対して積み上げる金額ではありません。

足りない部分を、時期と金額に分けて見つける作業です。

公的保障を確認するときの注意点

公的保障は、必要保障額を考えるうえで大切な前提です。

ただし、記事やシミュレーションだけで正確に決めきるのは危険です。

遺族基礎年金は、子どもの有無や年齢によって対象が変わります。遺族厚生年金は、亡くなった人の厚生年金加入状況や報酬比例部分などによって金額が変わります。

また、年金制度は改正されることがあります。令和7年に成立した年金制度改正法でも、遺族年金制度の見直しが含まれています。

そのため、保険を見直すときは、次の順番で確認するのが安全です。

まず、日本年金機構や厚生労働省の公式情報で、制度の対象者と基本的な考え方を確認する。

次に、年金記録やねんきん定期便など、自分たちの加入状況を確認する。

最後に、具体的な遺族年金額や受給可否について、年金事務所や専門家に確認する。

「だいたい出るはず」と思い込むのも、「よく分からないから全部保険で備える」と考えるのも、どちらも判断を乱します。

公的保障は、保険を減らすための都合のよい材料ではありません。

足りない部分を正しく見るための、確認すべき前提です。

今日できる簡易ワーク

必要保障額を正確に計算しようとすると、手が止まることがあります。

最初から完璧な数字を出さなくて大丈夫です。

まずは、次の5つを書き出してみてください。

1. 預貯金・投資など、すぐ確認できる資産

2. 住宅ローンや教育ローンなど、残っている負債

3. 子どもの教育費が大きくなる時期

4. もし片方の収入がなくなった場合、毎月いくら不足しそうか

5. 公的保障や勤務先の保障として確認が必要なもの

この5つが見えるだけでも、保険の話は少し落ち着きます。

「今すぐ保険を減らすかどうか」ではなく、「何が分からないから決められないのか」が見えてくるからです。

この型が使いやすい家庭、注意が必要な家庭

この整理が使いやすいのは、共働きで一定の収入があり、住宅ローンや教育費など大きなライフイベントが見えている家庭です。

とくに、保険料が高い気がするけれど減らす根拠がない、という場合には、現在地、公的保障、不足分の順で見ることで判断しやすくなります。

一方で、注意が必要な家庭もあります。

自営業・フリーランスの場合、会社員と公的保障の前提が異なります。

子どもが小さく、教育費や働き方の見通しが大きく変わりそうな場合も、細かい一回の計算より、数年ごとに見直す前提が必要です。

すでに大きな金融資産がある家庭では、保険で備えるより、資産の取り崩しや運用、住宅ローンの団体信用生命保険なども含めた確認が必要になります。

不安が強いときほど、保険だけで答えを出そうとしないことです。

家計全体の中で、保険がどの不足を担当するのかを決めていきます。

保険は「安心を買うもの」ではなく、不足を担当させるもの

生命保険の必要保障額に、誰にでも当てはまる正解はありません。

同じ共働き夫婦でも、子どもの有無、住宅ローン、貯蓄額、働き方、親族の支援、勤務先の制度によって必要な金額は変わります。

だからこそ、最初から「いくら入れば安心か」と考えるのではなく、順番を守ることが大切です。

今ある資産と負債を見る。

これから必要になるお金を時系列で並べる。

公的保障と勤務先の保障を確認する。

最後に、足りない部分だけを保険で補う。

この順番で考えると、保険は不安を丸ごと引き受けるものではなく、家計の中で役割を持つ道具になります。

「たくさん入っておけば安心」から、「どの時期の、どの不足に備えるか」へ。

その見方に変わると、生命保険の見直しは、怖い削減ではなく、家計の役割分担を整える作業になります。

あわせて読みたい記事

必要保障額を決められない心理的な理由を整理したい方は、こちらの記事が近いです。

共働き夫婦が生命保険の必要保障額を決められない理由──判断が止まる内面構造を整理する

まず迷いやすい前提から整理したい方は、こちらの記事も参考になります。

共働き夫婦の生命保険、必要保障額はどう判断すべき?──迷いやすい理由から整理する

家計の赤字や固定費全体の見直しとあわせて考えたい方はこちらです。

家計が赤字のとき固定費はどこまで削るべきか──削っていい線・削ってはいけない線

制度の最新情報は、必ず公式情報も確認してください。

日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」

日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」